2010年 01月 07日
ドク談シリーズ(5) アメリカのバイオテックで働く? |
最初から読んでいただいている方は、何でそっちの方に持っていくんだ?って思われるかも知れませんね(笑)。必ずしもそういうつもりではないのですが、このシリーズの最後に、私がアメリカのバイオテックにいるので、あらためてそのあたりのことを少し書きます。、以前にも似たようなことは書いていますが、今回初めてこのブログを読んでくださっている方も多いと思うので(Twitterで多くの方にRTしていただいているおかげでアクセス急増中、感謝です)。まあ実際に海外のバイオテックで研究職として働くとはどういうことかというのは今でも、あるいは今だからこそ多くの人が興味を持っているトピックだと思いますし。これはさらに二つのサブトピックに分かれます。
・ どうやったらアメリカのバイオテックに入れるのか?
・ 入った後、その中でどんなふうにやっていくのか?
まずはその最初のステップ、どうやったらアメリカのバイオテックに入れるのか?について。Ph.D.を有するScientistのケースを想定しています。何度も言いますが、こちらで研究職を目指すにあたっては、Ph.D.は必須です。従ってこの業界、そこらじゅうPh.D.だらけです。たくさんいるから結局ピンきりになって、中にはこの人本当にPh.D.?なんて疑いたくなる人も。
こちらのバイオテックの採用は日本のように新卒一括ではなく随時で、基本的な流れとしては以下のようになります。ポジションの空き(open position)ができたらその時点で募集をし、候補者(candidate)をスクリーニングし、数名を面接に呼び、最終的にひとりに決定してオファーを出します。
ポジションができるという部分がよくわからないかも知れないのでさらに詳しく説明しますと、ポジションのでき方には基本的に二種類あります。
1.誰かが退職、転職等して抜けたので、その部分を埋め合わせる人(replacement)を採用するケース
2.あるプロジェクトがより多くの予算を獲得したので、人数を増やすケース
2.でより多くの予算を獲得する理由としては、単に社内での優先順位が上がった場合や、他社とのコラボレーション、パートナーリングなどのために資金が入ってくる場合、政府系(NIHとか)あるいはNPO系のグラントが獲得できた場合、などがあります。
従ってポジションはひとつの場合もあれば、何人か続けて採用する場合もあります。どのような人材を探すかは、ケースバイケースです。あるときはベテランのリーダー職だったり、フレッシュなPh.D.だったり、修士卒のRAだったり、それらのコンビネーションだったり、人件費等も鑑みながら該当するプロジェクトチームをどんな人員構成としたいかによって決定されます。がちがちに固定ではなく、ある程度フレキシブルな場合もあります。時には自分たちの上司を面接して採用するなんていうこともあります
そのため、オープンポジションには必ずjob descriptionというものがあります。そのポジションの責任範囲、どんな人の元で働くか(どの職位の人にreportするかという言い方をします)、必要な学歴や実務経験年数、持っている技術などの求められる条件が詳しく書かれたものです。これらの情報を、会社のウェブサイトに載せたり、業界情報サイトに載せたり、学会のジョブフェアーを使ったり、あるいは口コミも使って、応募者を探します。
大学院を卒業見込みだったり、ポスドクだったり、あるいは他の会社をレイオフされたりした求職者は、あらゆるネットワークやオンライン情報を使って、オープンポジションを探します。求職者には、ポジションがいつ出るかわからないからです。大学には、企業のほうからリクルーターを派遣することもありますが。
どこかのオープンポジションを見つけたら、カバーレターとレジュメを送ります。カバーレターやレジュメの書き方などはまた別のトピックとなるのでここでは触れません。これらはできれば会社のウェブサイトにあるjobs@といったアドレスに送るのではなく、その会社のインサイダーを見つけて、その人経由で送るのがベストです。このあたりもいろいろなことあるのですが、今回はスキップします。
そして最初のスクリーニングを通過したら、通常は電話での簡単なインタビュー、さらにon siteでのフルインタビューとなります。したがって私のように英語が苦手な日本人の場合、最初の電話がまず鬼門となります(^^;)。しかしここを何とかして乗り切ることができれば、チャンスは広がります。
採用に関する私の経験を少し紹介すると、現在の会社で入社時15名から現在の70名ほどになるまで、過去7年近くの間に上司と同僚と部下、延べ10数名の採用に関わりました。最初の頃は一般公募に近い形でcandidateを集めていましたが、人が増えるにつれ、また景気が悪くなるにつれ、求職中の知り合いがいるという人が増えていきますので、個人ネットワーク経由にシフトしてきました。しばらくはこの傾向が続くと思われます。
一般からScientistを募っていた頃は、全米から集まったかなりの数のレジュメを見ましたが、実はその大半が海外(アメリカから見て)出身のポスドクで、ほとんどがアジアとヨーロッパ出身者でした。アメリカのバイオ系Ph.D.は海外出身者が圧倒的に多いようです。しかしながら、日本人ポスドクからの応募はひとつもありませんでした。もともとの絶対数の少なさに加え、アメリカの名もないベンチャーに応募してみようなどと思う人はいないのかなと、ちょっと寂しく感じたものでした。
話がそれかかってきましたが、これがアメリカのバイオテックに就職する大まかな流れで、実際にはビザやグリーンカードの取得など、別の重要な問題もあります。それに現在日本にいる人を採用することはまずあり得ません。少なくともこちらに住んでいる必要があります。
これも詳しいことはここでは書きませんが、ビザ事情も踏まえた上でバイオテックで働くチャンスが一番大きくなるのは、前回も書いたとおり大学院(もしくはそれ以前)からこちらに来て、こちらで学位を取得することです。そしてそのまま就職するか、場合によってはポスドクを数年やりながらバイオテックの仕事を探すという形になります。日本で学位を取ってからポスドクとして渡米すると、その後民間企業に就職するためのビザやグリーンカードの取得がより困難になる可能性があるためです。英語力という点でも、少しでも早くから留学した方が有利です。
英語力という言葉が出たところで、これも大きな関心が寄せられる、アメリカ社会で実際に求められる英語力について少し触れておきます。そんなことを書いていたら、ちょうど最近、渡辺千賀さんが海外で求められる英語レベルについてのエントリーをアップされていました。そちらもご参照あれ。
バイオ系では定性的に言えばおそらく、ポスドク < 会社1 = 大学院生 < 会社2 の順になると思います。私自身はアメリカでポスドクも大学院生もやったことがないのであくまで想像ですが、大学院生が結構高いのは、TOFLEなどのスコアが必要な上、入学のためのエッセイとかインタビュー(面接)とか、卒業するまでに試験があったり単位をそろえたりしなければいけないから。最初のインタビュー以外そういったものの大半が必要ないという理由で、ポスドクは英語レベルという点では一番ハードルが低いと思われます。実際にある話ですが、中国人PIのラボにいる中国人ポスドクはほとんど英語を話せないなんてことも。実は会社でさえ、似たようなケースはあります。基本的に自分の部下は自分で採用するため、そういうことも可能となります。まあこれは決して目指すべきことではありませんが。
会社1は、Scientist 1とかScientist 2のようにジュニアなレベルの研究員の場合。きちんとした実験データさえ出していれば、基本的にデータがあなたの実力を語ってくれるからです。でも入社するためのインタビューなどをこなせるだけのコミュニケーション力は必要。そんなに簡単ではありません。私自身の経験では、TOEICスコアはまったく当てになりませんでした。会社2は、Senior ScientistからDirector等、上のレベルを目指す場合です。こちらで大学院をきちんと卒業すれば、その間に英語力も格段に向上するはずで、これも大学院からの留学を勧める理由です。前回書いたように、経済的にもアドバンテージがあります。
二つ目のサブトピックである、それじゃあ実際にバイオテックに入ったとして、その中ではどんなふうにやっているのか?すなわちアメリカのバイオテック事情というのは、考えてみればこのブログ自体のテーマでもあるので、これまでにいろいろなことを書いています。左のカラムのカテゴリーから、「医薬、バイオ関連」、または「アメリカでの就職、キャリア関連」をクリックしていただくと、これらに関連したエントリーが出てきますので、興味のある方はぜひどうぞ。
ただし。数年前からの景気悪化で、アメリカでもバイテックの採用はほとんど凍りついているのが現状です。大手もダウンサイジングを続けるばかり。数年後には状況が好転しているといいのですが、こればかりは誰にもわかりません。ですからわからないことを悩むより、持てる材料と情報を自分なりに吟味し、最後は自分の直感にしたがってえいやっと何かを決めてみる、決めたらベストを尽くす、ある意味人生はこの繰り返しなのかなと思います。
5回に渡ってけっこうな長文を書いてきました、A-POTドク談シリーズ。だいぶ厳しいことも書きましたし、最後は海外流出誘導企画のようになってしまいましたが(^^;)、初回に書いたとおり、すべて私の独断に基づくおせっかいです。アンテナ感度と意識の高いみなさんには、何を今さらという部分や、そこは違うよという部分もたくさんあったことでしょう。私はその正反対で、とにかく本当に何も知らなかったので、もしかしたら今でもそういう人もいるかも知れないと思って、おせっかいとは思いつつもあえて書くことにしました。
少しでも日本の大学生、大学院生のみなさんにとって参考になる部分があれば幸いです。このシリーズは今回でいったん終了としますが、ここでは触れないといってスキップした事項もけっこうあるので、そういったことも含めて質問などあれば、どうぞ遠慮なくmail(アット)a-pot.com までお送りください。
・ どうやったらアメリカのバイオテックに入れるのか?
・ 入った後、その中でどんなふうにやっていくのか?
まずはその最初のステップ、どうやったらアメリカのバイオテックに入れるのか?について。Ph.D.を有するScientistのケースを想定しています。何度も言いますが、こちらで研究職を目指すにあたっては、Ph.D.は必須です。従ってこの業界、そこらじゅうPh.D.だらけです。たくさんいるから結局ピンきりになって、中にはこの人本当にPh.D.?なんて疑いたくなる人も。
こちらのバイオテックの採用は日本のように新卒一括ではなく随時で、基本的な流れとしては以下のようになります。ポジションの空き(open position)ができたらその時点で募集をし、候補者(candidate)をスクリーニングし、数名を面接に呼び、最終的にひとりに決定してオファーを出します。
ポジションができるという部分がよくわからないかも知れないのでさらに詳しく説明しますと、ポジションのでき方には基本的に二種類あります。
1.誰かが退職、転職等して抜けたので、その部分を埋め合わせる人(replacement)を採用するケース
2.あるプロジェクトがより多くの予算を獲得したので、人数を増やすケース
2.でより多くの予算を獲得する理由としては、単に社内での優先順位が上がった場合や、他社とのコラボレーション、パートナーリングなどのために資金が入ってくる場合、政府系(NIHとか)あるいはNPO系のグラントが獲得できた場合、などがあります。
従ってポジションはひとつの場合もあれば、何人か続けて採用する場合もあります。どのような人材を探すかは、ケースバイケースです。あるときはベテランのリーダー職だったり、フレッシュなPh.D.だったり、修士卒のRAだったり、それらのコンビネーションだったり、人件費等も鑑みながら該当するプロジェクトチームをどんな人員構成としたいかによって決定されます。がちがちに固定ではなく、ある程度フレキシブルな場合もあります。時には自分たちの上司を面接して採用するなんていうこともあります
そのため、オープンポジションには必ずjob descriptionというものがあります。そのポジションの責任範囲、どんな人の元で働くか(どの職位の人にreportするかという言い方をします)、必要な学歴や実務経験年数、持っている技術などの求められる条件が詳しく書かれたものです。これらの情報を、会社のウェブサイトに載せたり、業界情報サイトに載せたり、学会のジョブフェアーを使ったり、あるいは口コミも使って、応募者を探します。
大学院を卒業見込みだったり、ポスドクだったり、あるいは他の会社をレイオフされたりした求職者は、あらゆるネットワークやオンライン情報を使って、オープンポジションを探します。求職者には、ポジションがいつ出るかわからないからです。大学には、企業のほうからリクルーターを派遣することもありますが。
どこかのオープンポジションを見つけたら、カバーレターとレジュメを送ります。カバーレターやレジュメの書き方などはまた別のトピックとなるのでここでは触れません。これらはできれば会社のウェブサイトにあるjobs@といったアドレスに送るのではなく、その会社のインサイダーを見つけて、その人経由で送るのがベストです。このあたりもいろいろなことあるのですが、今回はスキップします。
そして最初のスクリーニングを通過したら、通常は電話での簡単なインタビュー、さらにon siteでのフルインタビューとなります。したがって私のように英語が苦手な日本人の場合、最初の電話がまず鬼門となります(^^;)。しかしここを何とかして乗り切ることができれば、チャンスは広がります。
採用に関する私の経験を少し紹介すると、現在の会社で入社時15名から現在の70名ほどになるまで、過去7年近くの間に上司と同僚と部下、延べ10数名の採用に関わりました。最初の頃は一般公募に近い形でcandidateを集めていましたが、人が増えるにつれ、また景気が悪くなるにつれ、求職中の知り合いがいるという人が増えていきますので、個人ネットワーク経由にシフトしてきました。しばらくはこの傾向が続くと思われます。
一般からScientistを募っていた頃は、全米から集まったかなりの数のレジュメを見ましたが、実はその大半が海外(アメリカから見て)出身のポスドクで、ほとんどがアジアとヨーロッパ出身者でした。アメリカのバイオ系Ph.D.は海外出身者が圧倒的に多いようです。しかしながら、日本人ポスドクからの応募はひとつもありませんでした。もともとの絶対数の少なさに加え、アメリカの名もないベンチャーに応募してみようなどと思う人はいないのかなと、ちょっと寂しく感じたものでした。
話がそれかかってきましたが、これがアメリカのバイオテックに就職する大まかな流れで、実際にはビザやグリーンカードの取得など、別の重要な問題もあります。それに現在日本にいる人を採用することはまずあり得ません。少なくともこちらに住んでいる必要があります。
これも詳しいことはここでは書きませんが、ビザ事情も踏まえた上でバイオテックで働くチャンスが一番大きくなるのは、前回も書いたとおり大学院(もしくはそれ以前)からこちらに来て、こちらで学位を取得することです。そしてそのまま就職するか、場合によってはポスドクを数年やりながらバイオテックの仕事を探すという形になります。日本で学位を取ってからポスドクとして渡米すると、その後民間企業に就職するためのビザやグリーンカードの取得がより困難になる可能性があるためです。英語力という点でも、少しでも早くから留学した方が有利です。
英語力という言葉が出たところで、これも大きな関心が寄せられる、アメリカ社会で実際に求められる英語力について少し触れておきます。そんなことを書いていたら、ちょうど最近、渡辺千賀さんが海外で求められる英語レベルについてのエントリーをアップされていました。そちらもご参照あれ。
バイオ系では定性的に言えばおそらく、ポスドク < 会社1 = 大学院生 < 会社2 の順になると思います。私自身はアメリカでポスドクも大学院生もやったことがないのであくまで想像ですが、大学院生が結構高いのは、TOFLEなどのスコアが必要な上、入学のためのエッセイとかインタビュー(面接)とか、卒業するまでに試験があったり単位をそろえたりしなければいけないから。最初のインタビュー以外そういったものの大半が必要ないという理由で、ポスドクは英語レベルという点では一番ハードルが低いと思われます。実際にある話ですが、中国人PIのラボにいる中国人ポスドクはほとんど英語を話せないなんてことも。実は会社でさえ、似たようなケースはあります。基本的に自分の部下は自分で採用するため、そういうことも可能となります。まあこれは決して目指すべきことではありませんが。
会社1は、Scientist 1とかScientist 2のようにジュニアなレベルの研究員の場合。きちんとした実験データさえ出していれば、基本的にデータがあなたの実力を語ってくれるからです。でも入社するためのインタビューなどをこなせるだけのコミュニケーション力は必要。そんなに簡単ではありません。私自身の経験では、TOEICスコアはまったく当てになりませんでした。会社2は、Senior ScientistからDirector等、上のレベルを目指す場合です。こちらで大学院をきちんと卒業すれば、その間に英語力も格段に向上するはずで、これも大学院からの留学を勧める理由です。前回書いたように、経済的にもアドバンテージがあります。
二つ目のサブトピックである、それじゃあ実際にバイオテックに入ったとして、その中ではどんなふうにやっているのか?すなわちアメリカのバイオテック事情というのは、考えてみればこのブログ自体のテーマでもあるので、これまでにいろいろなことを書いています。左のカラムのカテゴリーから、「医薬、バイオ関連」、または「アメリカでの就職、キャリア関連」をクリックしていただくと、これらに関連したエントリーが出てきますので、興味のある方はぜひどうぞ。
ただし。数年前からの景気悪化で、アメリカでもバイテックの採用はほとんど凍りついているのが現状です。大手もダウンサイジングを続けるばかり。数年後には状況が好転しているといいのですが、こればかりは誰にもわかりません。ですからわからないことを悩むより、持てる材料と情報を自分なりに吟味し、最後は自分の直感にしたがってえいやっと何かを決めてみる、決めたらベストを尽くす、ある意味人生はこの繰り返しなのかなと思います。
5回に渡ってけっこうな長文を書いてきました、A-POTドク談シリーズ。だいぶ厳しいことも書きましたし、最後は海外流出誘導企画のようになってしまいましたが(^^;)、初回に書いたとおり、すべて私の独断に基づくおせっかいです。アンテナ感度と意識の高いみなさんには、何を今さらという部分や、そこは違うよという部分もたくさんあったことでしょう。私はその正反対で、とにかく本当に何も知らなかったので、もしかしたら今でもそういう人もいるかも知れないと思って、おせっかいとは思いつつもあえて書くことにしました。
少しでも日本の大学生、大学院生のみなさんにとって参考になる部分があれば幸いです。このシリーズは今回でいったん終了としますが、ここでは触れないといってスキップした事項もけっこうあるので、そういったことも含めて質問などあれば、どうぞ遠慮なくmail(アット)a-pot.com までお送りください。
by a-pot
| 2010-01-07 13:57
| アメリカでの就職、キャリア関連