2005年 04月 30日
トカゲの唾液から新薬 |
渡辺千賀さんが、新しい糖尿病治療薬について書かれているが、発見の経緯を知りたいとのことなので、少しばかり。昨年のアメリカ化学会会報、Chemical & Engineering Newsの10月25日号に特集記事があるのだけれど、ウェブでは会員しか読めないので、以下に一部を引用します。
今回FDAから認可されたのは、商品名をBYETTA、一般名をExenatideという、2型糖尿病の治療薬で、GLP-1 (glucagon-like peptide 1) というペプチドホルモンと同等の働きをするペプチド。Amylin PharmaceuticalsとEli Lillyによって開発されたまったく新しいタイプの薬、いわゆるピカ新薬である。。GLP-1というのは、食事に伴って小腸で分泌され、膵臓のベータ細胞に働きかけてインスリン分泌を促す。すばらしいのは、その作用が血糖値に依存していることで、血糖値が高い間だけ働くので、従来の例えばSU剤に見られるような低血糖のリスクがない。さらにGLP-1には食欲を抑える間接的な中枢作用もあって、患者の体重が減少するという誠に都合のいい副作用もある。従来の糖尿病薬は体重が増えてしまうという問題点があった。
唯一ともいえる問題点は、ペプチドであるため経口投与ができず、注射のみで投与されること。GLP-1自身ではだめなのかというと、このペプチドは生体内で非常に不安定で、半減期がたったの90秒とのこと。これを有効に作用させるためには、延々と点滴静注しなければならない。これに対しExenatideはずっと安定で半減期が2から4時間とのことで、1日2回注射すればよい。
さて、この薬、もともとはGila Monsterという怪物トカゲの唾液から見つかった。New YorkのBronx Veteran's Affairs Medical CenterのJohn Engという内分泌学者が、トカゲの毒の中から生理活性ペプチドホルモンを探す研究をしていた。その過程でexendin-4と呼ばれるペプチドを発見し、それはGLP-1レセプターに結合することがわかった。さらに彼は、exendin-4が糖尿病のマウス(研究用にそういうものが作られているのです)の血糖値を下げることを見出した。これに目をつけたAmylin Pharmaceuticals社がEng氏からexendin-4の特許をライセンスし、化学合成により開発した。
微生物、植物、海産物、および各種の動物から生理活性物質を探す研究というのは、医薬品目的に限らず広く行われている。そのこと自体は何も珍しくないのだけれど、その中でも医薬品を目指すものというと、普通は微生物がつくる抗生物質その他、植物由来の化合物、あるいは海産物由来の化合物が多く、今回のようにトカゲの唾液由来なんていうのはかなり例外的。
他にも多くの会社でGLP-1類縁体の臨床開発が進んでいる模様。低分子はどうかというと、直接GLP-1作用を有する化合物をねらうのは難しい模様。で、別の戦略が進んでいる。GLP-1がすぐに分解されるのは、dipeptidyl peptidase IV (DPP-IV) という酵素がGLP-1のN末からアミノ酸2個を切り落としてしまうため。小腸でも肝臓でもこの攻撃にさらされるため、実際に働くことができるのは作られた量の10%程度になってしまう。そこでこのDPP-IVを阻害してやれば結果的にGLP-1の血中濃度が上がるので、間接的なGLP-1作用増強薬になる(はず)。ただしDPP-IVが働くのはGLP-1に対してだけではないので、副作用の恐れもある。ところがこれまで臨床に進んだ低分子化合物は、意外に副作用が少ないらしく、いい意味で驚きなのだそう。もちろんまだどうなるかわからないけれど、今後に期待といったところです。
今回FDAから認可されたのは、商品名をBYETTA、一般名をExenatideという、2型糖尿病の治療薬で、GLP-1 (glucagon-like peptide 1) というペプチドホルモンと同等の働きをするペプチド。Amylin PharmaceuticalsとEli Lillyによって開発されたまったく新しいタイプの薬、いわゆるピカ新薬である。。GLP-1というのは、食事に伴って小腸で分泌され、膵臓のベータ細胞に働きかけてインスリン分泌を促す。すばらしいのは、その作用が血糖値に依存していることで、血糖値が高い間だけ働くので、従来の例えばSU剤に見られるような低血糖のリスクがない。さらにGLP-1には食欲を抑える間接的な中枢作用もあって、患者の体重が減少するという誠に都合のいい副作用もある。従来の糖尿病薬は体重が増えてしまうという問題点があった。
In response to a meal, endocrine cells in the small intestine called L cells release GLP-1. In turn, GLP-1 prepares the body for the inevitable glucose surge, producing what is called an incretin effect. GLP-1 stimulates the release of insulin from pancreatic beta cells as long as blood glucose levels are high. It also inhibits the release of the hormone glucagon--which controls release of glucose from the liver--from the pancreas, so the liver stops dumping glucose into the bloodstream. Moreover, GLP-1 slows the emptying of the stomach, leading to a feeling of fullness and discouraging more food intake.
唯一ともいえる問題点は、ペプチドであるため経口投与ができず、注射のみで投与されること。GLP-1自身ではだめなのかというと、このペプチドは生体内で非常に不安定で、半減期がたったの90秒とのこと。これを有効に作用させるためには、延々と点滴静注しなければならない。これに対しExenatideはずっと安定で半減期が2から4時間とのことで、1日2回注射すればよい。
さて、この薬、もともとはGila Monsterという怪物トカゲの唾液から見つかった。New YorkのBronx Veteran's Affairs Medical CenterのJohn Engという内分泌学者が、トカゲの毒の中から生理活性ペプチドホルモンを探す研究をしていた。その過程でexendin-4と呼ばれるペプチドを発見し、それはGLP-1レセプターに結合することがわかった。さらに彼は、exendin-4が糖尿病のマウス(研究用にそういうものが作られているのです)の血糖値を下げることを見出した。これに目をつけたAmylin Pharmaceuticals社がEng氏からexendin-4の特許をライセンスし、化学合成により開発した。
John Eng, an endocrinologist at the Bronx Veteran's Affairs Medical Center, New York City, first found the peptide. In the 1990s, he was searching for bioactive peptide hormones in lizard venoms. He came across exendin-4, a 39-residue peptide that binds to the GLP-1 receptor in vitro. He subsequently established that the molecule lowers blood glucose levels in a diabetic mouse model. An Amylin scientist who saw a presentation of Eng's work recognized the potential of the molecule for its glucose-lowering action. Eng holds the patent on the use of exendin-4, and Amylin licenses the patent. Amylin's synthetic version is called Exenatide.
微生物、植物、海産物、および各種の動物から生理活性物質を探す研究というのは、医薬品目的に限らず広く行われている。そのこと自体は何も珍しくないのだけれど、その中でも医薬品を目指すものというと、普通は微生物がつくる抗生物質その他、植物由来の化合物、あるいは海産物由来の化合物が多く、今回のようにトカゲの唾液由来なんていうのはかなり例外的。
他にも多くの会社でGLP-1類縁体の臨床開発が進んでいる模様。低分子はどうかというと、直接GLP-1作用を有する化合物をねらうのは難しい模様。で、別の戦略が進んでいる。GLP-1がすぐに分解されるのは、dipeptidyl peptidase IV (DPP-IV) という酵素がGLP-1のN末からアミノ酸2個を切り落としてしまうため。小腸でも肝臓でもこの攻撃にさらされるため、実際に働くことができるのは作られた量の10%程度になってしまう。そこでこのDPP-IVを阻害してやれば結果的にGLP-1の血中濃度が上がるので、間接的なGLP-1作用増強薬になる(はず)。ただしDPP-IVが働くのはGLP-1に対してだけではないので、副作用の恐れもある。ところがこれまで臨床に進んだ低分子化合物は、意外に副作用が少ないらしく、いい意味で驚きなのだそう。もちろんまだどうなるかわからないけれど、今後に期待といったところです。
by a-pot
| 2005-04-30 15:52
| 医薬、バイオ関連