2015年 11月 28日
プロジェクトマネージメントで重要な3つの質問 |
2003年から今まで私が12年半勤務している会社の初代のCEO(Davidといいます)が、事あるごとに問いただした3つの質問があります。現在CEOは別の人に代わっていますが、私はこのDavidをとても尊敬しています。いわゆるプロの経営者というカテゴリーの人になりますが、シリコンバレーには時々すごい人がいるというまさに実例だと思っています。
前回のエントリーに続き、学生さん向けのトークで紹介しているメッセージシリーズということで、これは完全にDavidの受け売りになりますが、紹介したいと思います。3つの質問とは以下のとおり。
1.What is the biggest risk?
2.What is the critical path?
3.Is the timeline aggressive but possible?
順番に説明します。
1.What is the biggest risk?
(現時点で)最大のリスクは何か?という問いかけです。私がいるのは製薬業界で、その中でも新薬の研究開発(創薬)をしている会社です。従って会社のプロジェクトのゴールは新薬を開発して上市(発売)すること。しかしながら新薬の開発というのは、ほとんどがうまくいかない上に、万が一うまくいっても10年以上かかることが当たり前なプロジェクト。今できたばかりの化合物が薬として発売される(かも知れない)のは10数年後とかになる、けっこう気が遠くなるようなビジネスです。
そのような長いプロジェクトですが、ある意味そうであるからこそ、日々のプロジェクトマネージメントが重要になります。特にベンチャー企業がやろうとすると、お金や人手などのリソースに厳しい制限がありますから、最小限の仕事量で最高の効率と最大の成果を目指し、結果的に最短時間でゴールに到達しなければなりません。その時に重要なのが、上記3つの問いかけであり、そのひとつとして現時点で最大のリスクは何かを見極めることなのです。
新しいプロジェクトというものはリスクだらけです。創薬の場合、試験管レベルの効果が動物レベルでも再現できるのか、例えば飲み薬の場合、ほどよく溶けるのか、消化管からちゃんと吸収されるのか、肝臓で分解されないのか、血中でも安定なのか、思わぬ毒性は出ないのか、安定した品質のものを作れるのか、そのコストはリーズナブルなのか、最終的にはヒトに安全で効果があるのかなどなど、開発ステージによって山ほどのリスクがあります。それぞれの段階で、フォーカスすべきリスクは何なのかを確認しようということです。その時点で最大のリスクとは、つまりその段階で取り去ることができれば、プロジェクトの成功確率が最も増加するリスクということです。これは開発のステージが上がるにつれ、変わっていきます。それをいつも確認しなさいというのが、Davidのメッセージです。
2.What is the critical path?
こういうのはおそらくビジネススクールでは常識なんだろうけれど、まずクリティカルパスというのが何かがわからないといけません。Wikiに説明がありますが、初めて見る人にはちょっとわかりにくいかもですね。
あるプロジェクトを行う場合、そこには様々な要素(タスク)がありますよね。一般的なものでは企画、設計、デザイン、制作、広報、販売、などなど。医薬品の研究開発でも例外ではなく、作用の最適化、吸収、体内動態、安定性、溶解性、安全性、製造コスト、などなど多くのことをいくつも並行して進めていく必要があります。ただし依存性といって、あることが終わらないと次のことができないという関係にある要素もあります。例えば安全性試験に必要な量のサンプルが100グラムだったとすると、この100グラムのサンプルを作らないと安全性試験が開始できないといったような場合です。このような点も考慮して、プロジェクトを要素に分解し、プロジェクトの完遂に必要かつ十分な要素を時系列で並べたときに最長となる道筋が、critical pathになります。
つまり、critical path上にないことは本体やる必要はないのですが、研究者というのは、放っておくとつい寄り道というか、余計なことをしてしまいがちです。ちょっとおもしろいデータがあったときに、本来の目的とは関係なくてもそちらを追求してしまったり、念のためといって周辺のデータをこれでもかと集めたり・・・。
しかしながら、ベンチャーの経営においては、最短時間と最小出費で必要十分条件を過不足なくカバーし、ゴールにたどり着くことが最優先事項です。そのためにはcritical path上のタスクそのひとつひとつを最短時間に切り詰めていく(これがつぎの項目)ことが重要であり、このあたりをコントロールするのがプロジェクトマネージャーの仕事ということになります。
そのために、critical pathをきちんと把握しておくことが重要なのです。
3.Is the timeline aggressive but possible
Critical path上のタスクには、それぞれ予想必要時間があります。この仕事は2週間で終わるけれど、こっちは4週間かかるとか3ヶ月かかるとかいった具合です。それぞれの見積もり時間は本当に最短なのか?ということを確認するための質問です。仕事を担当者にアサインするとき、あるいは外注するときに、どれくらいの期間でできるかを聞くわけですが、期日を守れないリスクを避けるために、実際に必要な時間よりも長めな回答になる場合が多いため、すべてがうまくいったとしたら最短どれだけの期間でできるのかを確認することが重要になります。
最終的にはある程度のバッファ(予備日数)も含めますが、実際にタスクそのものに必要な最短時間を把握した上でないと、無駄な時間が入り込む可能性が高くなります。実際のところはやってみないとわからないことも多いのですが、例えば薬剤の7日間投与でラットでの毒性の有無を見るといった試験の場合には、毒性が出ようが出まいが7日間で投与は終わり、あとは事前に決めた期間の観察をすれば試験は終わりますから、比較的簡単にスケジュールは立ちます。期間を正確に見積もるのは難しい場合も、もっと創意工夫の余地はないかなど、あらゆる可能性を熟考した上で、できるだけ正確に時間を見積もり、スケジュールを決めていこうということです。後半部分を略してABPと呼んだりもします。
昨年、創業から13年目で最初の新薬を世に送り出すことができ、ここ1,2年のうちに2つ目も出せそうな状況になっているのには、社員全員がこの3つの質問を常に念頭においてきたことも大いに貢献していると、私は思っています。
上記3つの質問は、製薬業界に限らず、あらゆる業種のプロジェクトにおいて有効なのではないでしょうか。
前回のエントリーに続き、学生さん向けのトークで紹介しているメッセージシリーズということで、これは完全にDavidの受け売りになりますが、紹介したいと思います。3つの質問とは以下のとおり。
1.What is the biggest risk?
2.What is the critical path?
3.Is the timeline aggressive but possible?
順番に説明します。
1.What is the biggest risk?
(現時点で)最大のリスクは何か?という問いかけです。私がいるのは製薬業界で、その中でも新薬の研究開発(創薬)をしている会社です。従って会社のプロジェクトのゴールは新薬を開発して上市(発売)すること。しかしながら新薬の開発というのは、ほとんどがうまくいかない上に、万が一うまくいっても10年以上かかることが当たり前なプロジェクト。今できたばかりの化合物が薬として発売される(かも知れない)のは10数年後とかになる、けっこう気が遠くなるようなビジネスです。
そのような長いプロジェクトですが、ある意味そうであるからこそ、日々のプロジェクトマネージメントが重要になります。特にベンチャー企業がやろうとすると、お金や人手などのリソースに厳しい制限がありますから、最小限の仕事量で最高の効率と最大の成果を目指し、結果的に最短時間でゴールに到達しなければなりません。その時に重要なのが、上記3つの問いかけであり、そのひとつとして現時点で最大のリスクは何かを見極めることなのです。
新しいプロジェクトというものはリスクだらけです。創薬の場合、試験管レベルの効果が動物レベルでも再現できるのか、例えば飲み薬の場合、ほどよく溶けるのか、消化管からちゃんと吸収されるのか、肝臓で分解されないのか、血中でも安定なのか、思わぬ毒性は出ないのか、安定した品質のものを作れるのか、そのコストはリーズナブルなのか、最終的にはヒトに安全で効果があるのかなどなど、開発ステージによって山ほどのリスクがあります。それぞれの段階で、フォーカスすべきリスクは何なのかを確認しようということです。その時点で最大のリスクとは、つまりその段階で取り去ることができれば、プロジェクトの成功確率が最も増加するリスクということです。これは開発のステージが上がるにつれ、変わっていきます。それをいつも確認しなさいというのが、Davidのメッセージです。
2.What is the critical path?
こういうのはおそらくビジネススクールでは常識なんだろうけれど、まずクリティカルパスというのが何かがわからないといけません。Wikiに説明がありますが、初めて見る人にはちょっとわかりにくいかもですね。
あるプロジェクトを行う場合、そこには様々な要素(タスク)がありますよね。一般的なものでは企画、設計、デザイン、制作、広報、販売、などなど。医薬品の研究開発でも例外ではなく、作用の最適化、吸収、体内動態、安定性、溶解性、安全性、製造コスト、などなど多くのことをいくつも並行して進めていく必要があります。ただし依存性といって、あることが終わらないと次のことができないという関係にある要素もあります。例えば安全性試験に必要な量のサンプルが100グラムだったとすると、この100グラムのサンプルを作らないと安全性試験が開始できないといったような場合です。このような点も考慮して、プロジェクトを要素に分解し、プロジェクトの完遂に必要かつ十分な要素を時系列で並べたときに最長となる道筋が、critical pathになります。
つまり、critical path上にないことは本体やる必要はないのですが、研究者というのは、放っておくとつい寄り道というか、余計なことをしてしまいがちです。ちょっとおもしろいデータがあったときに、本来の目的とは関係なくてもそちらを追求してしまったり、念のためといって周辺のデータをこれでもかと集めたり・・・。
しかしながら、ベンチャーの経営においては、最短時間と最小出費で必要十分条件を過不足なくカバーし、ゴールにたどり着くことが最優先事項です。そのためにはcritical path上のタスクそのひとつひとつを最短時間に切り詰めていく(これがつぎの項目)ことが重要であり、このあたりをコントロールするのがプロジェクトマネージャーの仕事ということになります。
そのために、critical pathをきちんと把握しておくことが重要なのです。
3.Is the timeline aggressive but possible
Critical path上のタスクには、それぞれ予想必要時間があります。この仕事は2週間で終わるけれど、こっちは4週間かかるとか3ヶ月かかるとかいった具合です。それぞれの見積もり時間は本当に最短なのか?ということを確認するための質問です。仕事を担当者にアサインするとき、あるいは外注するときに、どれくらいの期間でできるかを聞くわけですが、期日を守れないリスクを避けるために、実際に必要な時間よりも長めな回答になる場合が多いため、すべてがうまくいったとしたら最短どれだけの期間でできるのかを確認することが重要になります。
最終的にはある程度のバッファ(予備日数)も含めますが、実際にタスクそのものに必要な最短時間を把握した上でないと、無駄な時間が入り込む可能性が高くなります。実際のところはやってみないとわからないことも多いのですが、例えば薬剤の7日間投与でラットでの毒性の有無を見るといった試験の場合には、毒性が出ようが出まいが7日間で投与は終わり、あとは事前に決めた期間の観察をすれば試験は終わりますから、比較的簡単にスケジュールは立ちます。期間を正確に見積もるのは難しい場合も、もっと創意工夫の余地はないかなど、あらゆる可能性を熟考した上で、できるだけ正確に時間を見積もり、スケジュールを決めていこうということです。後半部分を略してABPと呼んだりもします。
昨年、創業から13年目で最初の新薬を世に送り出すことができ、ここ1,2年のうちに2つ目も出せそうな状況になっているのには、社員全員がこの3つの質問を常に念頭においてきたことも大いに貢献していると、私は思っています。
上記3つの質問は、製薬業界に限らず、あらゆる業種のプロジェクトにおいて有効なのではないでしょうか。
by a-pot
| 2015-11-28 09:56
| アメリカでの就職、キャリア関連